Thursday 1 March 2012

方向転換

前回のエントリからしばらく間が空いてしまいましたが、その間、2月16日にキャメロン英首相がエディンバラを訪問しました。英政府の方針として、キャメロン首相はスコットランド政府との交渉の席には直接つかないことが決定されていたため、キャメロン首相とサモンド首相は会談したものの、両者の間では独立をめぐる議論は行われませんでした。ただ、キャメロン首相は独立問題についてのスピーチを行い、それが大きな反響を呼びました。

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・キャメロン首相の「取引」

スピーチの骨子は、独立をめぐる投票でスコットランド人が独立反対を選んで連合王国に残った場合、英政府としてさらなる権限移譲(devolution)を考慮する、というものでした。これは、それ以前のキャメロン首相のスコットランド独立および権限移譲についての発言を考えると、非常に大きな変化と言えます。以前は、キャメロン首相はさらなる権限移譲、特にスコットランド政府が財政面で自律的になることに反対であり、そもそも独立をめぐる投票についても、英政府が主導権を握り、英政府が許可を与えてのみ投票を認める、という立場でした。これまでの強硬な反独立の姿勢を緩め、スコットランド人に対して一種の取引,つまり独立反対と引き換えにさらなる権限移譲を認める、という交換条件を提示したのです。

それだけではなく、このスピーチでキャメロン首相は独立後のスコットランドについて肯定的な見解を述べました。曰く、スコットランドは独立後も経済的に自立できるし、独立国としてやっていけるでしょう。ただし、スコットランドが連合王国から分離するのは非常に残念なことだし、そもそもスコットランドもイングランドも連合王国のままでいたほうがより豊かで力強い国でいられるのです、と論じました。これも非常に大きな変化と言えます。キャメロン首相はじめ独立反対派はこれまで、独立後のスコットランドは経済的に不安定になり、自立してやっていくことは不可能である、したがってスコットランドは独立するべきではない、という論を張っていたからです。さらなる権限移譲という交換条件の提示、そして独立スコットランドに対する肯定的な評価-どうやらキャメロン首相は強硬反対路線を捨て、懐柔路線に出たようです。

・"Where's the beef?"

これに対しサモンド首相は、もし提案が真摯なものなら、キャメロン首相は当然ながら「さらなる権限移譲」が何を意味するのか、ただちに明確にすべきである、と揶揄しました。美味しいお肉がありますよ、あなたのものですよ、と言っているのに、じっさいの肉は見せないままじゃないか、と皮肉って、サモンド首相は「で、肝心のお肉はどこに?」と発言したようです。じっさい現在英政府が提出中の「スコットランド法案(Scotland Bill)」(10年以上経過した権限移譲の現状を考慮し、スコットランド政府のもつ権限を調整するための法案。また解説します)においては、スコットランド政府の権限を若干ですが削減することが提案されているのです。

サモンド首相の揶揄はもっともですが、キャメロン首相のスピーチは、私の見たところでは、独立問題についての議論の方向性を変えたように思われます。メディアでの議論はこのスピーチ以来、独立か否かではなく、権限移譲がどのようになるのか、に移りつつあります。また、「なかなかいいスピーチだったじゃないか」とキャメロン首相の方針変換に好印象を持った人も少なくないようです。キャメロン首相のスコットランドでの不人気ぶりを考えると、これはたいへん大きな変化と言えるでしょう。

こうした中、権限移譲こそが最善の選択である、というキャンペーンを始めたスコットランドのシンク・タンクもあり、今後しばらくは、独立か否かではなく、権限移譲がどのように行われるのか、という方向に議論が進んでいくかもしれません。

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