Thursday 10 May 2012

ミスか偏向か

5月3日のスコットランド地方選挙の結果についてですが、先日の記事で数字が大きく間違っていたので訂正します。 前回は獲得議席数と増減を以下のように示しましたが、


これはBBCの選挙速報に基づいた数字でした。しかし発表直後からこの数字の問題点が指摘され始めました。問題とは、イギリスでは通常、議席の増減は、当該の選挙とその前回の選挙の2つの選挙の結果を比較して算出するのですが、このBBCの議席増減は、2つの選挙結果の比較ではなく、現職議員と今回当選した議員との比較で算出していました

何が問題なのでしょうか? たとえば、ある政党が選挙で100議席を獲得し、4年後の選挙で議席を60に減らしたとします。その場合議席は40減となるのですが、もし4年のあいだに離党したり個人的事情などで辞職した議員が20人いて、選挙時には現職が80だとすると、選挙結果との差は40減ではなく20減になります。この2つの結果でどちらがより民意を反映していると言えるでしょうか。4年間の間の離党や辞職は選挙とは関係ないので、民意は反映されておらず、2つの選挙の結果のみを比べた40減の方が、より民主主義を反映した結果と言えるでしょう。現職との比較の場合、民意の変化の大きさが過小評価され、選挙結果の持つメッセージが正しく伝わらない可能性があります。今回BBCが採用した算出方法がこの方法だったわけです。

いっぽう、イギリスの慣例に従った2つの選挙の比較でみてみると、議席の増減は以下のようになります。


BBCの結果では労働党が僅差でSNPを上回ったのですが、見ての通りSNPが61増、労働党が46増と、SNPの躍進がより際立ちます。それだけではなく、自民党と保守党の議席減も大きくなり、特に自民党は100に近い議席を失うなど、危機的な結果であったことがわかります。

・ミス? 偏向?

まずこのサイトでBBCをソースにした数字のみを紹介したことについて謝りたいと思います。申し訳ありませんでした。じっさい今回のBBCの算出方法はふつうではなく、スコットランドの他のテレビ局(Scottish Television、通称STV)や一般のコメンテーターなどは慣例どおりの議席増減の算出方法をしています。BBCは他の選挙では慣例通りの算出方法をしていますし、BBCには政治部門のアナリストがいますので、単なるミスであったことは考えづらいでしょう。

BBCは選挙結果が判明した直後、サモンド首相にインタヴューを行いました。そのなかでサモンド首相は「SNPが最多の議席を獲得し、議席が増加した分も最大だった」とコメントをしたのですが、BBCは「サモンド首相、SNPの議席増は他の党よりも多かったと発言」とタイトルをつけたビデオクリップをアップロードしました(クリップのタイトルは今では変えられています)。BBCによる算出方法ではSNPの議席増は57、労働党が58なので、BBCの結果しか見ていない人がこのビデオを見た場合、「サモンドは何を言っているんだ? SNPの選挙結果を誇張しているのか?」という印象を抱きかねません。

「サモンド首相、(SNPの)議席増は最大と発言」とタイトルを打ったクリップ

BBCが慣例に従わない算出方法をしたのはなぜだったのでしょう。単なる気まぐれか、ミスか、あるいは意図的に数字を操作し、SNP勝利の印象を薄めたかったのでしょうか? じっさい、SNP支持者のあいだではそのように受け止められていますし、そうした疑念が生じるのも無理はありません。いっぽうBBCは公式声明を出しておらず、サイトでの選挙結果も変えていないので、真相は不明のままです。

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